サラダのサブスク「サラスク」

2020/09/27 13:43

渋谷から電車に揺られて30分。
ビルの間をすり抜けて、到着したのは東京都日野市。
北口を出て10分ほど歩くと、都会の雑踏を忘れるひととき。
深呼吸したくなるような広い空と、幸せであふれる野菜農園が出迎えてくれました。

2019年3月に開園したばかりのNeighbor’s Farm。



"お隣さんちで採れた野菜だよ!" 
東京でもそれくらい近い距離で、畑と食卓が繋がっていてほしい。
新鮮でおいしい野菜の一番魅力的な瞬間を、リアルタイムで届けたい。
そんな生産者さんの想いがたくさん詰まった、野菜たちと出会うことができました。

COVID-19をきっかけに、エッセンシャルワーカーへの関心も高まりましたね。
私たちが生きていくのに欠かせない要素である、”食”。
生産者である農家さんは、紛れもなくエッセンシャル=必要不可欠な存在です。



"野菜って幾何学的な綺麗さがあるんですよね" 
そう語ってくれたのは、Neighbor’s Farm代表である川名桂さん。

サラドでも、近くで採れたフレッシュな野菜を使いたい。
そんな想いで都内の生産者さんを探していたところに、彼女の野菜農園との出会いがありました。東京という街では難しいと思っていた地産地消を、Neighbor’s Farmとなら叶えられるかもしれない…!

今回はそんな彼女との対談を、インタビュー形式でお届けします。

ーツバメがいる…この生活は癒されますね。
そうですね、都会的なストレスはないですね。できたイチゴをちょっと摘んだりしながら(笑)

農業との出会い、そしてNeighbor's Farmの誕生

ーたくさんある職種の中で、どうして農業をやろうと思ったんですか?
何を仕事にしようか考えたときに、一生なくならない仕事がいいって思ったんです。
変わりゆくものより、変わらないもののプロフェッショナルでありたい。
なんとなく農学部に入って、最初は食の販売とか流通、加工品の開発の仕事をするつもりで農業系の企業に就職しました。当時の会社の "最新技術を取り入れた、次世代の農場をつくろう"っていう企画で、福井県に自社農場を立ち上げることになったんです。それが初めての現場でしたね。



ー実際にやってみて、相性が良かったんですか?
はい、すごく面白かったんです。
教えてもらったことをどれだけ正確に実践しても、やっぱり自然相手だからうまくいかないことも多くて。そこにどんどんハマっていったんだと思います。始め千葉の農家さんで1年間の研修と下積みをして、福井の自社農場へいきました。

ーなるほど。だけど千葉や福井を経て、なぜ東京で農場をつくろうと?
福井の農場はここの何十倍もの広さなんです。
しかも敷き詰められたコンクリートの上を自転車で移動するような、工場みたいな超巨大ハウス。新しい技術も次々取り入れて、"農業を工業化して世界と戦っていきましょう" というような、当時の政府の方針に基づいたプロジェクトのひとつでしたね。だけど地域との関わりも薄くて、社員とパートさんの距離も遠くて、ここで一生いることはできないなと感じていました。
一番大きかったのは、大量生産してたのに市場に出してなかったから、需給の調整がすごく難しかったことですね。

ー作りすぎやロスとか?
はい。それに消費地が遠いので、物流のトラブルもたくさんありました。
東京のコンビニで出してたトマトを母親が見つけて、"すごい古かったよ。前に持ってきてくれたのはもっと美味しかったのに"って言われたり。なんでこんな遠いところで作ってるんだろう、自信を持って発送しても良い状態で届いてないんだ、ってだんだん思うようになりました。

ーそれって悲しいし、なんだか悔しいですね。
本当にそうなんですよね。
そんなことを考えてたタイミングで東京に帰省したときに、全く使われてない農地がポツポツあることを知ったんです。なのに直売所には長蛇の列。"ここは農地も余ってるし、野菜を買いたい人もいる。私は作ったものを直接売りたい。それならここで始めたらよくない?"って思ったとたんイメージが湧いてきて、それ以外考えられなくなっちゃったんです。

「東京で農業をやる」ということ

ー都内だからこその悩みはありますか?
やっぱり住宅街だから、地域の方との関係は大切にしてます。
農地しかない土地だったら、朝からトラクター使ったり、農薬撒いたり、道路を汚したり…そういうことについて、考えることも少ないと思うんです。でもやっぱりこの地域に引っ越してきた人間として、みんながお互いに気持ちの良い生活をできるように心がけていますね。

ー洗濯物干してますもんね(笑)
トラクター動かすと土が舞っちゃって、トラブルに繋がるという話とかは聞いていたので。なかなか農業と生活って、こんなに近くにないんですよね。だからこそ気を遣うことはあります。だけど販売に関していえば、目の前の人が自分の育てたものを買って行ってくれて。
やっぱりそれは、本当に嬉しいことですよね。

ーさっきも老夫婦の方、買いに来られましたもんね!
そうですね、みんな挨拶する仲なんです。コミュニケーションは大切ですよね。



最高に美味しい、ロジカルなトマトを目指して

ーちなみに栽培においてのこだわりってありますか?
今はトマトにすごく力を入れてるんですけど…
何が一番のこだわりかって言われたら、全部って感じですね(笑)
水もそうですし、肥料や二酸化炭素の濃度、日射や湿度は、トマトにとって最適の環境にしています。こうやって自分で操作できるところには、全部こだわりを持って数字をコントロールしながら、最高のトマトを作る。
もちろん朝晩トマトの表情を見て、今日のは良かったとかダメだったとか、目で見て判断しています。常に観察するんです。そうして手掛けた野菜たちがあって、地域の方々が立ち寄ってくれる。やっぱり農業っていうだけで、ハッピーが溢れちゃうんです。

ー素敵です!川名さんにとって、一番のやりがいはなんですか?
そうですね、栽培は100%うまくいくことは絶対にないんです。だからやめられません。
さっきお伝えしたみたいに、数字がこうだ!こういうトマトにするんだ!って思ってるのに、絶対うまくいかないんですよ。予想が外れることもある。"もしかしたら、次はこうしたらもっと良いのかも"っていうことが毎回あるんです。終わりがないし、誰にも100点が分からない。
だからもう絶対にやめられないですね。



Neighbor's Farmから届けたいもの

ー最後に、今後のビジョンはなんですか?
"暮らし" をつくっていきたい。
住んでる人たちが、生きてて良かったなって思える瞬間に貢献したいんです。この狭い範囲で良いので、"生きてるんだな" を実感できる地域をつくり、そう生きれる人が増えるといい。
そのひとつの形として、自分は農業をやって野菜を売る。
もっと、誰もがそういうことを主体的に考える機会をつくりたいですね。
例えばここに来ると、「私って仕事なんでやってるんだっけ」「私の繋がりってどこにあるんだろう」って考える人が多いんですよ。そんなきっかけでありたいです。

ー確かにバリバリの都内だと、生活の中に比較対象がない。そうすると、その考えになかなか至らないですよね。
そうなんです。それにここって、やっぱり地方よりも身近な場所にある。
都心からそんなに遠くないですし、都会になりすぎた街の疲労感から解放されるような、ひとつの入り口になりたいなって思います。



今後も研修生の受け入れをしたり、人が気軽に集まれるスペースをつくっていきたいなど、川名さんの描くNeighbor’s Farmのあり方は、まだまだ現在進行中です。

生産者の方と直接お会いし、今回のような未来あるお話を聞けたこと。
毎日欠かさず野菜を調理し、いただく一人として、とても貴重なひとときでした。
ありがとうございました!

✳︎東京都の農地に関する制度や、就農相談を受け付けている農業会議について
川名さんのご紹介とともに、とても詳しく書かれている記事はこちら

〈Neighbor’s Farm 基本情報〉
所在地 :〒191-0022 東京都日野市新井870
代表  :川名 桂